健康コラム

【健康百話】第12話  腰痛 

整形外科  伊藤 友一 医師

 

“いわゆる腰痛”予防について 
 

 
直立二足歩行をする人間に特有といわれる腰痛がもたらす経済的、精神的損失は測りしれません。さらに、腰痛はIT革命によるコンピューター従事者の増加によるメンタルヘルスケアとともに益々重要な問題となることが予想されます。このように国民的な関心事である腰痛については、その原因、治療、予防等についてこれまで様々な角度から研究がされてきました。
 
 腰痛予防を考える上で腰痛の原因となる器質的疾患があるかないかを見極めることが肝要です。この器質的疾患を色々な検査で診断することが難しいこともあり、腰痛の治療や予防を複雑にしています。器質的疾患がある場合、予防よりも治療が優先されます。ここでは、腰痛の原因となる器質的疾患がない“いわゆる腰痛”の予防に関して論述します。
“いわゆる腰痛”の中には、腰痛をきたしていると思われる原因が推測される場合があります。腰痛の予防には、その原因を取り除いたり、修繕することが主眼となります。その人の身体的特徴をチェックすることにより、腰痛の原因がわかり問題が解決することがあります。また、腰痛が日常生活動作および身体的仕事活動によって引き起こされた可能性がある場合、その活動内容を把握することも重要となります。さらに、その人の生活環境、経済力、精神状態、人間関係などを捉える必要もあります。
 

1)身体的特徴
 

 身体的特徴として全身のバランスをチェックします。正面、側面よりみた異常(側弯、後弯など)がないかどうかです。腰椎の前弯が強いことより腰痛を訴えることがあります。下肢の配列異常をチェックする必要もあります。下肢の配列が悪いことから(O脚やX脚など)、あるいは、扁平足から腰痛をきたすことがあります。この場合、普段履いている靴をチェックすることも忘れてはいけません。次に、体の背側と腹側にある筋肉のバランスをチェックします。背筋と腹筋の筋力にアンバランスがないかどうか、筋の硬さに差がないかどうかを調べます。最近は、骨盤輪のアンバランスが原因とおもわれる腰痛や仙腸関節部痛も多くなっています。骨盤のゆがみ、高さの左右差がないかどうかを調べることも重要です。座っている時の姿勢、立った時の姿勢をチェックする必要があります。腰痛を予防するための治療は、以上のような身体的アンバランスを解消することが目的となります。最近、腰痛に神経筋協調運動の障害が関与しているとの報告があり、筋の質的異常をチェックする方法も確立されてきました。これら、筋の質的異常を解消するための新しい治療(バルーンを用いた訓練、水中歩行訓練、乗馬訓練、器械による乗馬訓練、スリングセラピー、器械による全身振動訓練など)も発展してきています。


2)日常生活動作

 立つ、歩く、走る、座る、横になる、ベッドで眠るなどの日常生活動作が腰痛に関与するといわれています。腰痛の予防には、その人の日常生活を把握する必要があります。一般に同じ姿勢を長く続けること、腰椎が前屈する(中腰姿勢)動作が悪いとされます。長く立ち続けたり、ハイヒールを履いたり、肘かけや背もたれがない椅子に座る、柔らかすぎるソファーのベッドに眠ることも腰痛をきたす一因といわれています。物を持ち上げる際、物を体に近付けず下肢を伸展したまま持ち上げる動作、高いところから物を直接取る動作、重い物を移動する時に押すよりも引く動作などが悪いとされます。

3)スポーツ活動

 スポーツをすることが腰痛の原因となることもあります。腰椎分離症や腰椎椎間板ヘルニアなどの器質的疾患を除外した場合、その人の身体的特徴(前述)、年齢、スポーツの種類やトレーニング方法、スポーツ活動時間などを把握することにより腰痛予防の糸口がみつかる場合があります。一般に、腰椎前傾姿勢や腰椎をねじる動作が入るスポーツでは、腰痛が生じる可能性があります。使い過ぎ(オーバートレーニング)を指摘したり、過密試合を是正する必要があります。また、腰背筋訓練、ストレッチングを取り入れ腰痛の発生を予防する必要があります。

4)身体的仕事活動

 職場における腰痛は、身体的仕事活動によって引き起こされた可能性のある筋骨格系の障害(作業関連骨格系障害)として捉えられます。世界的には、作業関連性筋骨格系障害としての腰痛予防対策がとられています。我が国においては、労働災害の一つとして「職場における腰痛予防対策指針」を示して対策を立てていますが、実際の現場では対策が遅れているのが現状です。職場における腰痛予防対策は、疫学調査(アンケート調査)、職場巡視、健康管理、作業管理、作業環境管理、労働衛生教育などが中心です。さらに、腰痛の発生が比較的多い5つの作業について作業態様別の基本的な対策を示しています。重量物取り扱い作業、重症心身障害児施設等における介護作業、腰部に過度の負担のかかる立ち作業、腰部に過度の負担のかかる腰掛け作業 座作業、長時間の車両運転等の作業です。腰痛予防のためには、実際に腰痛がどの程度あるのか、どのような作業で生じているのかを詳しく把握する必要があります。

腰痛予防は可能か

 ”いわゆる腰痛症”の治療や予防は、その原因を取り除いたり、修繕することが主眼となります。その内容は、腰痛体操などの筋力訓練、日常生活動作指導を含む腰痛学級、産業医学的作業環境の改善、漢方や針に代表される代替医療、バランス訓練など多種に及んでいます。しかし、腰痛を予防するためには多要因を考慮した多面的、集学的アプローチが必要です。また、心身医学的アプローチも含めた全人的予防対策が肝要です。それにより腰痛予防は可能になると思われます。

伊藤 友一 医師



出 身 地   福島県
最終学歴  山形大学 医学部卒業
職 歴     平成16年 済生会山形済生病院入職
専 門 医   日本整形外科学会 専門医
      日本整形外科学会スポーツ認定医
      日本リハビリテーション医学会 臨床認定医
      日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医
      日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医


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