健康コラム

【健康百話】第17話 遺伝カウンセリングと確率のお話 

産婦人科 阪西 通夫 医師

 
 
 
なぜ流産したのか、流産の原因に遺伝的な要因はあるのか、妊娠したが胎児に染色体の異常はないか、遺伝的な疾患はないか、この次に妊娠したときにもまた流産するのではないか、といったような疑問や心配に関して相談をする遺伝カウンセリングの現場においては、何が何%に認められるとか、何%くらいの確率で起こるという言葉をよく使います。
 
流産の原因に関してカウンセリングを希望される御夫婦には、このように話します。
妊娠したと言って外来を受診する妊婦の10人に1.5人が流産します。流産した原因を調べると、流産胎児の約70%に染色体異常(主に数の異常)が認められ、このことが原因で流産したと考えられます。残りの30%には染色体異常が認められず、母体が原因(甲状腺の機能低下、抗リン脂質抗体症候群、子宮奇形など)ではないかと考えられます。しかし現在では、これらのなかにも胎児の染色体そのものの異常(遺伝子の異常)が含まれていると考えられています。
妊婦の10人に1.5人が流産するということは、確率では約6分の1で流産することになります。先に話しましたように流産の原因の多くは染色体異常であり、染色体異常のある胎児はそのほとんどが淘汰され、流産するようになっています。したがって確率6分の1で流産することは、しかたがないことと考えます。確率6分の1で思いつくのは、サイコロです。サイコロを振って1が出たら流産になるとしましょう。1回目に1が出たとします。確率は6分の1のことなのでよくあることです。2回目も1が出たとします。確率は36分の1のことなので、これもそんなに珍しいことではありません。3回目も1が出たとします。確率は216分の1のことになり、3回連続の流産はめずらしいことです。そして、これは何かありそうだと考えます。サイコロに何かしかけがある、すなわち流産する確率が違うと考えます。夫か妻のどちらかの染色体になにか異常が存在して、流産しやすくなる原因があると考えます。このような場合は、御夫婦の染色体検査を勧めることになります。
 
 

 
ダウン症の児が生まれるかもしれないという不安で、 羊水検査を希望する御夫婦にはこのようにカウンセリングします。羊水検査でわかることは、ダウン症のような胎児の染色体の数の異常(ダウン症は21番染色体が3本あり、21-トリソミーと言います)や構造異常だけです。染色体のなかの遺伝子の異常や、胎児に奇形があるか、心臓に異常はないか、将来病気にならないかなどは、わかりません。さらに検査ですので、胎児に対して危険性があります。200人に1人くらいの割合で流産をおこすことがあります。ところで、母親の年齢が高いとダウン症などの染色体異常の児が生まれる確率が高くなることがわかっています。40歳で60人に1人くらいで、35歳で200人に1人くらいです。
 

 
検査により流産することをリスク、染色体異常の児が生まれることを仮にリスクと考えてみます(染色体の異常のある子供さんを養育しておられる御両親には、このようなことを言ったらたいへん失礼なことでありますが、確率の計算上やむなく)。 35歳以上では染色体異常の児が生まれるというリスクの方が、検査で流産するというリスクより高くなります。35歳未満では検査で流産するというリスクのほうが、染色体異常の児が生まれるというリスクより高くなります。35歳以上の妊婦さんが羊水検査の対象ではないかと考えている方もいますが、このような理由からなのです。ダウン症にかぎって言いますと、40歳でダウン症の児が生まれる確率は100人に1人くらいです。30歳でダウン症の児が生まれる確率は1000人に1人くらいです。40歳は30歳より10倍確率が高くなります。パーセントになおして言い換えると、40歳は1%、30歳は0.1%でダウン症の児が生まれます。別の見方をすると、40歳は99.0%、30歳は99.9%で正常の児が生まれます。なんだ、正常の児が生まれる確率は0.9%くらいしか下がらないのかという考え方もあります。40歳でたまたま4回目の妊娠をした母親は、100分の1の確率を大きいと考えて心配するかもしれません。不妊治療後10年目にしてようやく妊娠にこぎつけた40歳の母親は、なんだ99人は大丈夫かと考えるかもしれません。降水確率1%で、傘を持ってお出かけする人はどのくらいいるのでしょうか。確率はその人によって、とらえ方が違うのです。 
 

 

 
35歳以上だから、羊水検査をしなければいけないということはありません。40歳以上でも、したくなければ、しないでよいです。34歳でも心配でしょうがないなら、すればよいのです。ちなみに、母体に何か問題(薬を飲んだとか)がなくてとも、先天的な異常を持つ児は、150人に1人くらい生まれます。
流産の原因を検索したが不明であり、次回の妊娠も流産になるのではないかと心配する御夫婦にはこのようにカウンセリングします。流産の原因は不明でした。次回の妊娠がうまくいくかはわかりません。何か原因があって流産の確率が通常の人より高くなっているのかもしれませんが、流産しない確率もちゃんと存在します。生児が欲しいのなら、妊娠しなければチャンスはありません。乱暴な言い方になりますが、あたりが欲しければくじを引かなければいけません。幸い不妊症ではないので、福引の引換券は持っているようですので。

 

 
最後になりますが、40%の女性が生涯に流産を経験するそうです。また、流産をくりかえす人の85%が無事に出産までたどりつくことがわかっています。 あきらめる前に検査と治療を受けましょう。
 

阪西 通夫(ばんざい みちお)昭和32年生まれ



出 身 地   新潟県
最終学歴  山形大学医学部卒業
職  歴  平成7年 済生会山形済生病院入職
現  職  産婦人科診療部長
専 門 医   日本産婦人科学会 産婦人科専門医
      母体保護法指定医師
      日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
      日本周産期・新生児医学会 母体・胎児暫定指導医
      NCPRインストラクター


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