健康コラム

【健康百話】第35話 痙縮(けいしゅく)に対するボツリヌス治療


はじめに


脳卒中は要介護となる原因疾患の第1位であり、後遺症を抱えて生活する患者の増加とその家族・介護者を含めたケアが課題となっています。痙縮(けいしゅく)とは脳卒中後遺症の一つであり、筋肉が緊張しすぎてつっぱってしまい姿勢異常や疼痛といった障害をもたらす状態のことです。痙縮の患者さんは、手指が握ったままとなり開きにくい、手首や肘が過度に屈曲する、股関節が過度に内転する、足先が足の裏側の方に曲がってしまうなどの症状がみられ(図1)、日常生活動作(ADL)が制限されるだけでなく、衛生管理に支障が生じ介護の妨げになることがあります。

ボツリヌス療法とは

痙縮に対するボツリヌス療法は、脳卒中治療ガイドライン2009でグレードAで推奨されている治療法で、ボツリヌス菌(食中毒の原因菌)が作り出す天然のタンパク質を有効成分とする薬(商品名:ボトックス)を痙縮のみられる筋肉内に注射して、筋肉の緊張を和らげ、関節の可動域を広げたり、疼痛を緩和したり、歩行しやすくしたりすることによって患者さんのADLに改善が期待できる治療法です。誤解される患者さんがいらっしゃいますが、手足の麻痺そのものを改善させる治療法ではありません。ボツリヌス療法の効果は注射後2-3日から徐々に現れ、2-3ヶ月持続しその後徐々に効果は薄れてしまうので治療を続ける場合は年に数回注射を受けることになります。当科では平成24年5月からボツリヌス療法を開始し、これまで25人の患者さんに合計61回の治療を行い、良好な成績を得ています。

ボツリヌス療法の実際

痙縮によって歩行などのADLや介護などが著しく阻害されていなければ痙縮治療は必ずしも必要ありません。当科では、理学療法士や作業療法士と連携して、ひとりひとりの患者さんを治療前に詳細に評価し、ボツリヌス治療の適応を決定し、治療目標を詳細に設定して治療を行い、治療後も定期的な評価とリハビリテーションを積極的に導入しています。

代表症例1

64歳男性、発症後14年経過した脳出血後遺症による左上肢痙縮(肘関節屈曲、手関節屈曲、握りこぶし状変形)に対して浅指屈筋・深指屈筋・手根屈筋・長母指屈筋に合計200単位のボツリヌス筋肉内注射を行いました。初回投与後1ヶ月で痙縮の軽減が得られ、4ヶ月後に再投与を行い、反復投与によってさらなる痙縮の軽減が得られました。握りこぶし状変形が軽減し、本人も「手洗いが楽になった」と満足しておられます。

代表症例2

80歳男性、発症後12年経過した脳出血後遺症による右下肢痙縮(内反尖足、鉤爪様足趾)に対してヒラメ筋・後脛骨筋・長趾屈筋・長母趾屈筋に合計200単位のボツリヌス筋肉内注射を行いました。初回投与後1ヶ月で痙縮の軽減が得られ、3ヶ月後に再投与を行い、反復投与によってさらなる痙縮の軽減が得られました。本人も「歩行がスムーズになった」と喜んでおられます。

ボツリヌス療法の副作用

基本的には安全な治療ですが、一時的に注射部位が腫れたり、痛みが出たりすることがあります。ごくまれに呼吸困難・嚥下障害・痙攣などの重大な全身症状が出ることが報告されております。当科では原則として初回のボツリヌス投与は入院で、2回目以降の投与は外来で、医師や看護師の十分な管理のもとで治療を行っております。

経済的問題

1回で投与可能なボトックスの上限は上肢で最大240単位、下肢で最大300単位と決められており、3ヶ月以内の反復投与は認められておりません。ボトックスは100単位あたり約9万円ですので3割負担として上肢240単位で約7万円、下肢300単位で約8万円の自己負担となります。身体障害者手帳での医療費減免制度や、高額医療制度もあります。

さいごに

痙縮でお困りの患者さんがいらっしゃいましたら気軽に脳神経外科外来にご相談ください。

菊地 善彰(きくち ぜんしょう)



昭和52年生まれ
出身地  山形県鶴岡市
最終学歴 新潟大学医学部卒業
職歴   平成24年8月 済生会山形済生病院入職
現職   脳神経外科副医長
専門医   日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医


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