健康コラム

【健康百話】第39話 「おしり」

 

「おしり」

この言葉から連想するものは何でしょう?赤ちゃんのおしりだったり、丸みだったり、どちらかというと柔らかいもののイメージだと思います。それでは「こうもん(肛門)」はどうでしょうか?隠しておきたいもの、ひとには見せたくないもの、汚いものというイメージを持つのかなと思います。
この肛門、私たちの体の中で生活に関わる大切なものですが、意外とその働きは知られていません。今日は「こうもん(肛門)」と「痔(じ)」のお話をしたいと思います。

【こうもん(肛門)のしくみ】

「こうもん」は言うまでもなく便の出口ですが、消化管というひとつの管でみると、口が入口、「こうもん」が出口なので、口と似ている形態をとっています。口において皮膚と粘膜の境目に口唇(くちびる)があるように、肛門にも歯状線とよばれる皮膚と粘膜の境界線があります。くちびるに当たる部分は肛門管と呼びます。また「こうもん」の周囲を取り囲むように括約筋といわれる筋肉が内側と外側に二重に走っていて、肛門をしめたり、ゆるめたりしています。内側の筋肉は反射などで無意識に動き、外側の筋肉は意識的に動かすことができます。また、肛門の出口近くには括約筋と粘膜や皮膚の間に、毛細血管が網目状に集まり、結合組織や粘膜下のうすい筋肉とともに盛り上がりをつくって、肛門に強い力をかけて締めなくても、肛門が閉じやすくしている柔らかな肛門クッションと呼ばれる部分があります(図1)。口で言えばくちびるの柔らかな部分がこれにあたります。くちびるが膨れて分厚くなったり、くちびるを間違って噛んで血まめができたり、荒れてかさかさになって切れたりするように、「こうもん」も様々な状態になります。

 

【じ(痔)について】

「こうもん」の病気としてよく知られているのは「痔(じ)」ですが、痔といっても、いぼ痔、きれ痔、あな痔などの種類がありそれぞれに特徴があります(図2)。
 
 

●いぼ痔(痔核)

<原因と症状>
まずはいぼ痔、医学用語では「痔核」といいます。先ほどの肛門クッションが腫れてしまい、いぼのような丸みを帯びてしまうものをいいます。歯状線より上の直腸でおこる内痔核と歯状線より下の皮膚でおこる外痔核があります。原因は排便時のいきみや、繰り返す便秘や下痢、重いものをもったり、長時間座ったりなど肛門に負担がかかることと言われています。症状は肛門の痛み、排便した際の出血、痔核の肛門外への脱出、肛門の腫れぼったい感じ、肛門のかゆみ、肛門からの粘液のもれなど、人によってまたは慢性期・急性期など時期によっても変わります。
内痔核は脱出(肛門管内から肛門外にでる)や還納(肛門管内にもどる)の程度や自覚症状によって進行程度を4段階に分けています。
 
GradeⅠ:排便時に肛門管内で痔核は膨隆するが、脱出はしない。
GradeⅡ:排便時に肛門管外に脱出するが、排便が終わると自然に還納する。
GradeⅢ:排便時に脱出し、用手的な還納が必要である。
GradeⅣ:常に肛門外に脱出し、還納が不可能である。
 
<治療>
治療は保存的治療法と外科的治療法があります。
1. 保存的治療法
保存的治療法は生活習慣の改善と薬物療法からなります。
1) 生活習慣の改善
まずは痔がおこりやすい状況や悪化させやすい状況を極力避けるのが大事です。
排便時のいきみや長時間の排便をさけ、便意があれば我慢せずに短時間で済ませることが大事です。また便秘をさけるために十分な水分摂取や食物繊維の摂取が必要です。
痔核が脱出気味の場合は入浴などもいたみを和らげるに役立ちます。
2) 薬物療法
薬物療法には軟膏や坐剤などの外用薬と内服薬があります。外用薬は肛門内に直接作用し、粘膜や皮膚の炎症をとります。炎症を抑えるステロイドを含有しているもの、痛みを抑える局所麻酔薬を含有しているものなどがあり、軟膏にはさらに潤滑油としての働きがあります。内服薬は炎症を抑える働き、痛みを抑える働き、出血を抑える働きなどが配合されたものがあり、便通の状態により便秘のためのくすりや、腸の動きをよくするくすりなども用います。
3) 外科的治療法
外科的治療法は様々な方法はありますが、内痔核に対し実際に国内で多く行われている方法は大きく分けて、痔核結紮切除術とALTA四段階注射療法の二つです。
痔核結紮切除術は内痔核そのものを切除してしまう手術です。内痔核は1個〜3個  くらいできることが多く、痔核に入ってくる血管を縛り、痔核の組織を切除します。
どの進行程度の内痔核にも行うことができ、外痔核がある場合や肛門ポリープのあるようなものでも切除することが可能です。再発の可能性は約5%で少ないのがメリットですが、デメリットとしては創ができるために手術後に痛みを伴うこと、術後創部からの出血を起こすことがあること、大きくとってしまうと肛門が狭くなってしまう場合があることです。また、約1週間の入院が必要となります。
 
 もうひとつのALTA四段階注射療法は切らずに治す方法です。肛門から内痔核に直接注射をして硫酸アルミニウムカリウム水和物・タンニン酸(ALTA)という薬液を注入し、痔核を硬化・萎縮させ、直腸内に固定させてしまう方法です(図3)。メリットは切除をしないので創ができず、痛みが少ないこと、入院が短く済むこと(日帰り手術の場合あり)です。デメリットは再発の可能性が4〜16%と多くなること、適応とならない内痔核があることです。

●きれ痔(裂肛)

きれ痔は医学用語で裂肛と言います。排便時のいきみや硬い便の通過、下痢の際の急激な圧によって肛門管の粘膜の一部がきれてしまうものです。女性にやや多く、男女ともに若年者に多く、肛門の前面と後面(時計の12時と6時方向)に多く、排便時に急にしみたり痛くなったりし、トイレットペーパーに付着する程度の真っ赤な血がでるのが特徴です。治療は保存的治療が中心で、便秘や下痢の予防、薬物療法としては軟膏ですが、何回もきれたりするものは慢性化し潰瘍をつくり、肛門狭窄を来たすものがあります。肛門狭窄が強い場合には肛門を拡張するための手術を行う場合があります。
 

●あな痔(痔ろう)

あな痔は痔ろうといい、男性に多いのが特徴です。歯状線のくぼみの肛門陰窩とよばれる部位から細菌が侵入、粘膜下の肛門腺に感染して炎症が広がりますが、これが肛門周囲の皮下まで到達し膿がたまったものを肛門周囲膿瘍とよびます。症状としては肛門の周りが腫れ、痛み、発熱などです。肛門周囲膿瘍が経過中に自然に破れたり、治療のため切開すると膿が排出され症状は軽快します。しかしその後にトンネルのような膿の通り道ができることがあり、肛門の周りの筋肉や粘膜の間、筋肉と筋肉の間に慢性的な感染巣をつくり、痔ろうとなります。痔ろうはそのまま放置することによって通り道が複数できることがあります。また、炎症を繰り返す痔ろうを長年(10年以上)放置すると、痔ろうの部位に癌ができてしまう(痔ろう癌)ことがあります。痔ろうがある場合には早めに治療しておくことが重要です。
 治療は主に手術です。痔ろうのトンネル部分(瘻管)を切除する方法です。また肛門から離れた部位や、複数の瘻管をもった痔ろうにはひもを通して感染を除去する方法(Seton法)があります。
 
【さいごにひとこと】
 このように痔だけをとっても様々な種類があり、症状もそれぞれ違います。出血がある場合には、大腸がんとの区別が必要です。恥ずかしさもありなかなか診察を受けるのを迷うこともあるかと思いますが、気軽に相談してみてください。長年悩んでいたことが一気に解決することも多いと思います。
 

磯部 秀樹 (いそべ ひでき)


出身地  山形県米沢市
最終学歴 山形大学医学部卒業 
職歴   平成25年4月済生会山形済生病院入職
現職   外科診療部長
専門医   日本外科学会〔専門医〕 
      日本消化器病学会〔専門医〕 
      日本消化器外科学会〔専門医〕
 
 
 


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